伊藤忠テクノソリューションズ株式会社様
マルチベンダー体制とフルリモート環境で、CTCはいかにSAP S/4HANA移行を成功させたか
課題
-
- 「2025年の崖」と「人材枯渇」による体制の危機
- 「見えない現場」と「分断された連携」
- 「機能維持」と「品質保証」のジレンマ
効果
- 「発注者主導」による真のパートナーシップ確立
- 「毎朝のコミュニケーション」が生んだチームの一体感
- 決算遅延ゼロ、稼働後1週間で問い合わせ収束
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社様
- 創立
- 1972年4月1日
- 本社所在地
- 〒105-6950 東京都港区虎ノ門4-1-1 神谷町トラストタワー
- 事業内容
- クラウド・AI・データ分析・サイバーセキュリティをはじめとするシステム販売・構築サービス。
コンサルティングから運用・保守までのITライフサイクル全体にわたるサポート。
科学・工学系ITサービスの提供。
概要
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(以下、CTC)は、マルチベンダー体制かつコロナ禍におけるフルリモートという難条件のもと、発注者主導の統制と徹底した検証により、SAP S/4HANA移行を決算遅延ゼロで完遂しました。
徹底したテストや密なコミュニケーションなど、発注者自身が責任を持つ「オーナーシップ」が鍵となったプロジェクトの全貌について、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 情報システム本部ビジネスアプリケーションシステム部長 小野塚氏、同 課長 加藤氏にお話を伺いました。

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 加藤様(左) / 小野塚様(右)
導入前の課題
-
- 「2025年の崖」と「人材枯渇」による体制の危機
Simple Financeの保守期限が迫る中、市場でのSAP技術者不足が懸念に。リソース確保の観点から「マルチベンダー体制」を選択。さらに、「フルリモート」という、コミュニケーション不足に陥りやすい環境でのプロジェクトを開始した。
- 「2025年の崖」と「人材枯渇」による体制の危機
-
- 「見えない現場」と「分断された連携」
リモートワーク環境下において、開発担当とテスト担当など、異なるベンダー間の連携が希薄化。お互いの進捗やトラブルの予兆(空気感)が掴めず、プロジェクト全体が見えなくなるリスクが高まっていた。
- 「見えない現場」と「分断された連携」
-
- 決算遅延ゼロ、稼働後1週間で問い合わせ収束
基幹システムはCTCのビジネスの心臓部であり、停止は許されない。加えて、業務影響を最小限に抑えながら、移行後も従来同等の機能・品質を維持する必要があり、「絶対に失敗できない」という品質プレッシャーが存在した。
- 決算遅延ゼロ、稼働後1週間で問い合わせ収束
導入後の効果
-
- 「発注者主導」による真のパートナーシップ確立
CTC自身が主体的に統制(オーナーシップ)を持ち、テクノスジャパンを単なる作業者ではなく「伴走パートナー」として活用。ユーザー企業が主導してベンダーを束ねることでプロジェクトを成功に導く、理想的なマネジメント体制を確立した。
- 「発注者主導」による真のパートナーシップ確立
-
- 「毎朝のコミュニケーション」が生んだチームの一体感
PMO主導で「毎朝会」を導入し、意図的に顔を合わせる場を設定。対話を重視したコミュニケーションをとることでリモートの壁を突破して、ベンダーの垣根を越えて「空気感」を共有。潜在的な課題を即座に解決する「ワンチーム」への変革に成功した。
- 「毎朝のコミュニケーション」が生んだチームの一体感
-
- 生産進捗・在庫の可視化と標準化による調整負荷の削減
今回の移行を単なる保守終了への期限対応ではなく「将来的な全社基盤の刷新(To-Be)に向けた先行投資」として位置づけプロジェクトを推進。徹底した現新比較とシナリオテストにより、稼働後の問い合わせも1週間で収束し、決算遅延ゼロを達成。「業務を一切止めない」という最大の成果を証明した。
- 生産進捗・在庫の可視化と標準化による調整負荷の削減
基幹業務を止めないための、待ったなしのSAP移行
―今回のプロジェクトを開始するに至った背景を教えてください。
-3-scaled-e1784168743574-300x249.jpg)
小野塚様
小野塚氏:もともとCTCでは、SAP ECC 6.0に加え、会計領域でSimple Finance※を利用していました。当初はECC 6.0の2025年保守終了が話題になっていましたが、その後ECC 6.0の延長が発表される一方で、Simple Financeについては2025年末でのEOSL※※が確定し、延長措置がないことが判明したことで、待ったなしでバージョンアップを行う必要に迫られたのです。
ただ、単なる期限対応だけではありません。私たちは2020年頃から基幹システム全体の「あるべき姿(To-Be)」を描き直していました。その一環として、まずは期限のあるSAPを先行してSAP S/4HANAへ移行し、将来的な全社基盤の刷新に向けた足元を固める狙いがありました。
※Simple Finance:SAPの会計ソリューションの旧呼称で現在のS/4HANA Finance
※※EOSL:End of Service Life の略で製品の保守・サポートが終了することを指す
業務継続性を最優先に、Brownfield※を選択
―移行方式としてBrownfieldを選択された理由をお聞かせください。

加藤様
加藤氏:基幹システムはCTCのビジネスを支える心臓部です。今回のプロジェクトでは、基幹刷新によるリスクを取るよりも、「業務継続性を損なわないこと」を最優先ミッションとしました。
計画フェーズでGreenfield※※なども比較検討しましたが、これまでのカスタマイズ資産や業務データをそのまま継承でき、かつユーザーへの影響を最小限に抑えられるBrownfieldが最適であると判断しました。
※Brownfield:既存のシステム資産やデータを引き継ぎながら、新システムへ移行・変換する方式(コンバージョン)
※※Greenfield:ゼロからシステムを新規構築する方式(新規導入)
マルチベンダーという複雑な体制を前に進めた、発注者のオーナーシップ
―今回のプロジェクトの成功要因を一言でいうと何でしょうか。
小野塚氏:「発注側のオーナーシップ」に尽きると思います。特に今回のようなマルチベンダー体制では、ユーザー企業自身が責任を持って判断・統制しないと絶対に回りません。「お金を払っているからやってくれるだろう」という姿勢では、乗り越えられなかったでしょう。
テクノスジャパンさんは、そうした我々の意図を汲み取り、単なる作業者ではなく、伴走パートナーとして柔軟かつ強力にサポートしてくれました。最後まで当事者意識を持って伴走してくれたことに感謝しています。
マルチベンダー体制下で求められた「業務理解」と「全体統制力」
―パートナーとしてテクノスジャパンを選んだ理由を教えてください。
加藤氏: テクノスさんには、以前の基幹システム刷新時から要件定義から保守に至るまで一貫して支援いただいており、我々の業務とシステムの中身を誰よりも深く理解してくれていました。
本来はできるだけシンプルな体制で進めることが望ましいと考えていましたが、昨今の「SAP技術者不足」の影響もあり、今回は確実な体制構築のために複数のベンダーにお願いする「マルチベンダー体制」を選択しました。その難しい状況の中で、全体把握が必要なPMO支援や、重要領域の担当をお願いできるのは、我々の内情を熟知しているテクノスさんしかいないと考えました。
リモート環境とマルチベンダー体制が生んだ「見えない壁」
―プロジェクト推進において、どのような課題がありましたか。
小野塚氏: やはり最大の課題は「人」でした。Simple Financeの導入事例が少なく手掛かりが乏しかったことに加え、技術者確保のためにマルチベンダー体制、かつフルリモート環境であったことで、統制の難易度が格段に上がりました。
実際に、アプリ改修を担当するベンダーとテストを担当するベンダーが異なり、物理的に離れているため、お互いの進捗やトラブルの予兆が見えなくなってしまったのです。「週次定例」だけでは情報連携が追いつかず、現場の空気感が掴めないまま進捗にズレが生じるという、PMOとして非常に危うい状況を感じていました。
毎朝の会話で、見えない現場の課題発見と意思決定の速度を上げた
―その状況をどのように打開されたのでしょうか。
テクノスジャパン担当者: 当社としても「空気感」を掴むために、ルールを抜本的に見直しました。具体的には、水曜日以外は毎日朝9時から、たとえ5分でもいいから全員参加の「朝会」を実施することにしたのです。
画面越しでは伝わらない困りごとや相談を、その場ですべて吐き出してもらう。ファシリテーションも我々が行い、課題があればその場で即決、あるいはエスカレーションする運用を徹底しました。
加藤氏: このコミュニケーションの場を作ったことで、会社間の壁がなくなり、バラバラだったベンダーが「一つのチーム」として機能し始めました。これが実行フェーズでの大きな立て直し策だったと思います。
業務を一切止めずに移行を完遂できたことが最大の成果
―品質面での工夫や、導入効果について教えてください。
小野塚氏: 品質については、アセスメントツールでの影響分析に加え、実機での全機能「現新比較」という検証を行いました。さらに経営層からの要請を受け、実際の業務フローに沿った網羅的な「シナリオテスト」も追加実施しました。これにより、権限周りの不備など本番で起きがちなトラブルを事前に潰し込むことができました。
効果としては、稼働後わずか1週間で問い合わせが収束し、 最大の懸念だった決算業務も遅延なく完了しています。「機能的な変化が見えにくいのに費用がかかる」と言われることもありましたが、業務を一切止めずに移行を完遂できたことこそが、最大の成果だと自負しています。

――CTC担当者からひと言
今回のSAP S/4HANA移行で確立した発注者主導の統制と高品質な検証プロセスは、今後のDX推進における基盤になると考えています。この成果を活かし、AI活用による業務変革をさらに加速させるとともに、社内に散在する業務ルールや規定などのナレッジの一元化・デジタル化にも取り組んでいきたいです。
問い合わせ対応の自動化や、BPR※のシミュレーションなど、人が介在しなくても回る仕組みを作り、世代交代や引継ぎの課題も解消していきたいですね。
※BPR:Business Process Reengineeringの略で既存の業務プロセスを抜本的に見直し、再設計すること
――テクノスジャパン担当者からひと言
今回のプロジェクトは、技術的な難易度もさることながら、マルチベンダー体制かつフルリモートという環境要因が非常に大きな壁となっていました。しかし、CTC様がベンダー任せにせず、強いオーナーシップを持ってプロジェクトを牽引し、我々を含めた全メンバーが一丸となって推進できたことが、今回の成功の最大の要因だと感じています。
CTC様の「業務継続性」への強いこだわりと、未来を見据えた構想実現に向け、テクノスジャパンはこれからも、ERPの枠を超えた「基幹システム、業務、人をつなぐ」力で支援を続けてまいります。