京セラドキュメントソリューションズジャパン様
AIによる通話要約とFAQ提案をPoCで検証。コンタクトセンターのAI活用に道筋
― Salesforce Agentforceによる通話要約が実業務で使える品質に到達、本格展開へ
導入前の課題
- 入力業務の負荷
- FAQ検索の非効率
- FAQが「人が読む」前提の形式だった
PoCで確認できたこと
- AI要約が実業務で使える品質かの見極め
- AIによるFAQ自動提案の実現可能性の確認
- AIが読めるナレッジ構造化の要件の特定
京セラドキュメントソリューションズジャパン株式会社様
- 設立
- 2000年10月1日
- 所在地
- 大阪本社:〒540-0004 大阪府大阪市中央区玉造1丁目2番37号
東京本社:〒105-0001 東京都港区虎ノ門3丁目17-1GRAN TORANOMON 7F - 事業内容
- 複合機、プリンター、商業用・産業用印刷機器、ドキュメントソリューション、アプリケーションソフトウェアおよびサプライ製品の販売・メンテナンス・レンタル等
プロジェクト概要
京セラドキュメントソリューションズジャパン株式会社(以下、京セラ)のコンタクトセンターでは、CTI基盤にGenesys Cloudを、CRM基盤にSalesforceを利用しています。従来、オペレーターは電話でのお問い合わせ内容を聞きながら要約し、Salesforce上に手入力していたが、この入力業務にベテランと新人で大きな差があり、オペレーターの定着率や生産性に影響を及ぼしていました。
この課題に対し、京セラはAI活用を検討。既にCTI側(Genesys Cloud)で先行していた音声認識・要約機能を、業務プロセスに組み込んで初めて効果が測れると考え、CRM基盤であるSalesforceに統合された「Agentforce」に着目しました。
本格導入に先立ち、まずは5ライセンスの小規模なPoCから着手。オペレーターの入力業務を支援する「通話内容の自動要約」と、要約内容から最適な回答をレコメンドする「FAQの自動提案」の2つのユースケースを検証範囲とし、Salesforceのコンサルティングパートナーであるテクノスジャパンの支援を受けながら、AI活用の実現可能性を検証しました。
実業務でのトライアルは今後の予定であり、本記事はPoC段階での取り組みをまとめたものです。

京セラドキュメントソリューションズジャパン
サービス事業本部 コンタクトセンター 責任者 南孝二氏(左)/
サービス事業本部 サービス統括部 副統括部長 浅野信行氏(中央)/
サービス事業本部 サービス統括部 サービスアドバイザー 岩﨑洋一氏(右)
導入前の課題
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- 入力業務の負荷
入力業務の負荷が大きくオペレーターの習熟や定着の面でも課題となっていた。
- 入力業務の負荷
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- FAQ検索の非効率
専門性の高い商材に対する検索に時間がかかり、目的のFAQにたどり着けず時間を要するケースがあった。
- FAQ検索の非効率
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- FAQが「人が読む」前提の形式だった
人が読む前提の長文形式で蓄積されており、AIが正しく解釈できなかった。
- FAQが「人が読む」前提の形式だった
PoCで確認できたこと
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- AI要約が実業務で使える品質かの見極め
AIが生成した通話要約のうち、人による修正がほとんど必要ないものが約70〜80%。本番運用に耐えうる精度であることを、PoCで確認できた。
- AI要約が実業務で使える品質かの見極め
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- AIによるFAQ自動提案の実現可能性の確認
要約内容を起点にAIが最適なFAQを提示できることを、検証環境で確認できた。
- AIによるFAQ自動提案の実現可能性の確認
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- AIが読めるナレッジ構造化の要件の特定
FAQをAIが理解可能な「一問一答」形式に構造化する取り組みを進め、AI活用の前提となるデータ整備の要件を特定した。
- AIが読めるナレッジ構造化の要件の特定
プロジェクト開始の背景
―AI活用の号令はかかった。では、どこから手をつけるか

浅野氏
もともと会社全体として、AIを活用して業務効率を上げていこう、という声が社内のいろいろな場所で上がっていました。同時に、カスタマーサポート業務の中でどうAIを活用していくかを検討していく中で、Salesforceさんをはじめ複数社からアプローチをいただいていたのですが、お話を聞く中で、きちんと課題を選定してからでないと費用対効果も測れないだろうという思いがありました。
そこで、コンタクトセンターの中でどんな課題があるかを実際に確認していったところ、オペレーターが電話内容を手入力する際、素早くできるのはベテランに限られ、新人の成長がなかなか進まないという実態が見えてきました。コンタクトセンターは入れ替わりが激しい職場でもあるので、そこをAIやテクノロジーで解決していく必要がある、というのが取り組みのスタートでした。
―新人オペレーターの教育にはどのくらいの期間がかかっていたのでしょうか。
新人教育を始めてから1〜2ヶ月ほどで、実際にお客様の電話を単独で取り始めます。経験の浅いうちは対応に時間もかかりますが、そこからある程度の件数、1日に10件、20件と対応できるようになるまでには、3ヶ月から半年ほどかかるイメージです。入力面で見ても、ベテランなら3〜5分で終わる要約入力が、半年以内の新人だと10分ほど、ほぼ倍かかっていました。複合機やプリンターの修理・使い方の問い合わせは業界特有の専門性が高く、その業務に就いて間もない人が突然電話を受けるのは簡単ではない、という課題がありました。
スモールスタートの設計思想、まずはPoCから
―本格導入ではなく、まずはPoCから始めた理由を教えてください。
正直、AIがどこまでできるのかが自分たちでもわかっていませんでした。それをいきなりスタートしても、実際に業務が回せるのか、効果があるのかを測れません。まずはPoCをやって実力を見極め、実際の業務にマッチすることを確認してから本番適用していこう、という考え方でPoCを始めました。データの持ち方なども含め、テクノスジャパンさんに色々とアドバイスをいただきながら、しっかり勉強した上で進めています。
音声で自動応答する未来を見据え、Agentforceを選んだ
―数あるAIツールの中で、SalesforceのAgentforce※に着目した理由を教えてください。
当社ではCTI※にGenesys Cloudを使っており、実はGenesys Cloud側にもAI機能があり、通話内容のテキスト要約は先行して行っていました。ただ、要約した内容をしっかり業務に落とし込んで効率改善するには、Salesforce側に取り込んでCRM上で自動化していくところまで考えないと、効果は測れないだろうと考えました。AIに要約させるだけでは駄目で、業務プロセスの中に組み込むところまでやろうと。私たちの基盤がSalesforceだったので、Agentforceを使おうという、比較的自然な流れでの選定でした。
他のアプローチも検討しましたが、Genesys CloudとSalesforceは元々直接連携しているため、そこに別のAIサービスを挟むとなると、もう一つ接続の仕組みを作る必要が出てきます。それよりは直接つないだ方がシンプルだと判断しました。
※CTIシステム:Computer Telephony Integrationの略で、電話と業務システムを連携させる仕組みのこと
※Agentforce:Salesforce上で自律的にタスクを実行するAIエージェントを作成・管理・展開できるプラットフォームのこと
―将来的には音声での自動回答も構想されているとのことですが、どのようなイメージでしょうか。
音声応答の部分は、Salesforceさんとテクノスジャパンさんにも入っていただき、消耗品受付の範囲からPoCを始める計画をしています。修理受付は質問が非常に多岐にわたり複雑ですが、消耗品受付は「赤のトナーが欲しい」「トナーがなくなった」など内容がシンプルなので、まずはそこから始めようと考えています。
PoCの検証範囲とKPI設計
―PoCでは、どの業務・ユースケースを対象に、何を検証しましたか。

岩﨑氏
オペレーターがタイピングせずに、要約された内容をテキストとしてSalesforceに取り込めること。そして、その要約された内容から、AIがFAQのデータをピックアップして提示し、それをオペレーターが使えるかどうか。この2つを検証しました。FAQの自動提案を実現しようとすると、データ整備がとても重要になります。AIが理解できるデータとはどういうものかを知ることは、Salesforceに限らず社内の他のデータにも展開できる知見になると考えていました。
―プロジェクト開始時点で、どのようなKPIを設定していたのでしょうか。
まずは要約などにかかる時間、つまり受付後の後処理時間をどれだけ短縮できるか。もう一つはワンストップ解決率です。コールだけで業務が完結すれば、現場のフィールドサービスを走らせる必要がなくなり、それが最もコスト削減につながります。この2点を軸にしていました。
AI要約の品質評価 ── 精度は「手直しがどれだけ少ないか」で測った
―AIによる要約の品質は、どなたがどのように評価したのでしょうか。

南氏
そこは私たちにも知見がなかったので、テクノスジャパンさんにご協力いただきました。まず、要約に必要な情報は何かを一緒に定義し、例えば住所情報が必要な場面で住所情報が言葉と合っているか、といった重要項目を基準に、AIができているかできていないかを測っていただきました。10項目あるうち9項目は合っている、1項目違う、というような形です。想定するトークスクリプトを出し、どのくらいのヒット率になるかを算出してもらいました。
要約の評価は、後で人が手直ししなければならない箇所がどれくらいあるか、という観点で見ています。手直しする量が少ない水準が、だいたい70〜80%くらいでした。これなら業務に使える、ちょっと直すくらいなら問題ない、という評価です。もともとGenesys Cloudの音声認識技術の精度が高いこともあり、それに引っ張られて要約の質も良くなっている面はあります。
「人が読むFAQ」を、「AIが読めるFAQ」へ
―FAQの整備は、どのように進められたのでしょうか。
従来のFAQは、人が読んで理解することを前提に作られていました。長文で書かれていると、AIはどの部分を指しているのかを正しく解釈できず、間違った回答を返してしまうことが分かりました。そこでテクノスジャパンさんの協力のもと、一問一答形式に作り替える作業を進めています。
―具体的に、どういった難しさがありましたか。
ナレッジを専任で担当しているメンバーに、「AIが見て分かるように作り変えてほしい」と依頼しました。実際にやってみると、人が読む文書とAIが解釈できる形式のギャップが想像以上に大きいことが分かりました。人が読む場合は文脈から判断できますが、AIは単語のつながりで拾っていくため、この単語があるからこの回答だろう、と全く違う答えを返してくることがある。質問と回答を明確に1対1で対応させないといけない、というのは実際にやってみて分かったことです。
―この経験は、今後どう活きてきそうですか。
人が見ても、AIが見ても分かるデータを作るということが肝になります。この考え方はSalesforceに限った話ではなく、他のAI活用にも共通して必要になるものだと考えています。
テクノスジャパンの役割と評価
「それでは失敗する」と、はっきり言ってくれた
―プロジェクトの中で、テクノスジャパンはどのような役割を担い、どのような場面で支援が有効でしたか。
AIというとどうしてもツールありきの話になりがちですが、まずKPIや目標数値をきちんと設定し、それをどう成し遂げるかを考えてからシステム構築に入らないと失敗する、とはっきり言っていただいたことが非常に有効でした。
「費用対効果が分からない」中で、KPIをどう置くか
AIを使ったことがない中で、それがどれだけ課題を解決するかという想像がつきません。費用対効果がわからない中でどうKPIを設定すべきか、どう考えて設定していくべきかを教えていただいたことは、私たちが一番学ばせていただいた部分だと思います。AI導入も投資である以上、経営層からは費用対効果を問われます。それにきちんと答えられる材料を用意できたことが、プロジェクトを前に進める力になりました。
目から鱗だった「逆ピラミッド」
本来はあるべき姿・会社が望むKPIやKGIから下ろしていくのが通常の設計手法ですが、それを設定したところで本当に達成できるかは見えません。まず技術的なKPIから逆算していく、いわば「逆ピラミッド」の考え方を提示していただいたのは、目から鱗でした。AIがどれくらいできるか、ある程度算段がつけば、そこから逆算してどれくらいの効果が出そうかが見えてくる。これが経営層に説明できるロジックになります。

図:「逆ピラミッド」の考え方
業務を理解した上で、一緒に考えてくれる
―テクノスジャパンと進めて良かった点、プロジェクト推進において助かった点があれば教えてください。
テクノスジャパンさんとは2021年、コロナが最も厳しかった時期に、当社のサービスシステムのリプレースのタイミングからご協力いただいています。私たちの業務をよく理解していただいているので、コンタクトセンターにAIを導入していく上で、自社のスキルやノウハウだけでは限界がある部分を、専門的な立場からしっかり支援いただけるのは非常に重要でした。私たちの課題をよく理解した上で一緒に考えていただけることが、大変助かっています。
今後の展望
―今後、精度向上・定着・対象業務拡大に向けて取り組みたいことを教えてください。
まずはお客様からの問い合わせを受け付けるオペレーター支援から適用し、その後、当社社員のCE(カスタマーエンジニア)向けや、販売パートナー向けのテクニカルサポート窓口への展開を構想しています。さらに、そこで得た知見を発展させ、パートナー向けポータルサイトや、カスタマーエンジニアが現場で利用できる範囲にも広げていきたいと考えています。
さらに、オペレーターの応対で得られたAI要約のテキストそのものを、ナレッジの蓄積に活用していくことも考えています。
AIを使うこと自体が、目的になってしまわないように
―これからAI活用を検討する企業へ、メッセージをお願いします。
AI活用においては、AI機能をただ使うことが目的化してしまうと、おそらく成功しません。まず課題を明確にし、目的とKPIをしっかり定めることが前提になります。私たちも、あるべき姿から下ろしていく通常の設計ではなく、まず「AIが実際にどこまでできるのか」という技術的なKPIから逆算していく、いわば逆ピラミッドの発想で進めました。加えて重要なのは、現行の業務プロセスを一度整理し、人にもAIにも理解できるデータを整備することです。私たちの場合は、FAQを一問一答形式に構造化し直す作業がまさにこれにあたります。ナレッジの蓄積とデータ整備が、AI活用を成功させる鍵になると実感しています。「使いたいけれど、どこから、どう設計すればいいか分からない」という企業の方には、まず技術的な実現性を確かめ、そこから逆算して展開ステップを描いていくアプローチをお勧めしたいです。
テクノスジャパン担当者からひと言(読者の皆様へ)
本プロジェクトで印象的だったのは、京セラ様の姿勢です。もともと「課題を定めてからでないと費用対効果は測れない」というお考えをお持ちでした。私たちからは、「逆ピラミッド」によるKPI設計に加え、これからのAI活用には「人が読んで分かる」と「AIが解釈できる」の両方を満たすデータづくりが欠かせず、それがAIの回答精度を左右する——という考えのもと、FAQのデータ整備化をご提案しました。京セラ様はこれらを正面から受け止め、プロジェクト推進の方々の手で実行されました。AI活用の成否は、ツール選定よりも、こうした地道な取り組みを実行し切れるかどうかで分かれると私たちは考えています。
「AIを導入したいが、何から始めればいいか分からない」という企業様は、まだ非常に多くいらっしゃると思います。今回の京セラ様の取り組みが、そうした企業様にとって、小さく始めて着実に前進するための一つのヒントになれば幸いです。テクノスジャパンは、Salesforceの技術支援だけでなく、業務課題の整理からデータ活用の設計まで、お客様に伴走してご支援してまいります。